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「太陽の刻印~灰色のルチル~」
第一章 父からの贈り物

第一章 父からの贈り物(1)

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 「ルチレイテッド=クォーツェン、いざ尋常にわたくしと勝負なさいませ!」
 静かな部屋の中で朗々と響き渡るはいつもの来訪者であり、ただのはた迷惑な客人・ガートルード=ゴールディンの声であった。
 まったく彼女の話の切り出し方はいつも唐突であるが、いつも同じパターンである。いい加減飽きるものでないのかとその都度思うが、相手にとってはそうではないらしい。
「断る」
 そしてこれまた答える方もいつもどおりに素気なく断るは名を呼ばれた当人、ルチレイテッド・クォーツェンその人だった。尤も彼女の名前は少々呼びにくいので、大概のものは彼女をルチルと愛称で呼ぶことが圧倒的に多い。
 年の頃は十八、九ほどか。長い髪を無造作に緩く編んだ三つ編みにしてまとめてあるだけで、年頃の娘なら大概は付けているだろう髪飾りなど装飾品は見当たらない。そんな彼女の纏うものと言えばこれまた飾り気のないエプロンドレスのみとくる。
 印象深いのは彼女の鋭い瞳、髪の色、それに服に至るまですべてが灰色で統一されているところだろう。ここまで揃えているのはわざとなのだろうが、年若い娘が灰色一色に決め込んでいるというのはあまりなかろう。
 反して彼女に攻め寄るガートルードは年は恐らくルチルよりも多少下だろうか、顔つきは幾分幼く見える。名前も豪奢だが、彼女のすべてが派手であった。
 幾重にも巻かれた巻き毛が美しい金髪に深緑の瞳、少女のすべてに映えるようあつらえただろう深緑のドレスには複雑な金の縫い取りで刺繍がされており、それがより一層彼女を華やかに見せていた。
 尤もそれらのすべてがルチルには鬱陶しいことこの上ないのだが。
 火花を散らす少女と受け流す少女、対峙する二人はまさに正反対そのもの、これ以上ないほど対照的ではある。
「灰色のルチル! あなたはいつもそうやってわたくしのことを小馬鹿にして! 正式な魔導協会の紹介書があるわたくしに随分な態度ではありませんこと?」
 そう言うとガートルードはどこからか取り出した羊皮紙を一枚ルチルに突き付ける。内容は至極簡単なものだ。
 羊皮紙に書かれているのは魔術文字ではあるのでごく普通の人間には一切読めないが、魔術に関わるものであればさほど難しくない内容となっている。
 曰く、『汝、深緑のガートルード、灰色のルチルと対峙することを認めん。魔導協会』と。
 魔術師というものはその強大なる能力故にやたらに勝負事をせぬようにと言う毅然とした戒律がある。とはいえ優劣を付けたがるものは何処にでもいるわけであり、それによるトラブルは数え切れない。時に生き死にに関わるほどのものや、国を揺るがす事態を招いた深刻なものも過去には幾つかあった。
 そこで二度とそのようなことが起きないようにと魔導協会としても熟慮し、決定したのが魔導対決という方法である。
 魔導師の申し出によりまず対決内容が吟味され、その結果、対決が認められた場合にのみ初めて許可が下りる。対決の場所は無論教会が指定した場所となり、教会から派遣した審判の同席が不可欠である。
 教会としても魔導師たちにあちらこちらで勝手に暴走されるよりも事態を把握できることもあり、これを徹底的に推奨した。
 お陰でこの方法を用いない魔導対決は非合法扱いとなり、これを行った魔導師の位が下がる、あるいは剥奪されることとなっているので沽券を大事にする魔導師であるが故に当然、非合法対決は忌避されるようになった。
 この取り決めによって普通に暮らす人間たちには大いに恩恵があった。何しろ道を歩いていただけで魔導師の争いに巻き込まれるなどという事態から解放されたのだ。
 しかしこれには最大最悪の欠点がある、挑まれたものは必ず答えよと言う暗黙のルールの存在だ。
 まったく有り難くもない話だとルチルは思う。それを免罪符に誰もが自分のところにわんさかやってくるのだからたまらない。
「深緑のガートルード嬢? 何度言わせれば気がすむのか知らないが、そんなものは今の私には関係ない。貴殿はお忘れのようだが、今の私は単なる薬師(くすし)であってだな…」
 何百回口にしたか分からない理の文句を今日もまたルチルは口にする。
 そう、今のルチルが生業とするのは魔術師ではなく薬屋の看板を家に掲げる立派な薬師である。残念ながらお客の入りはこの手の闖入者達がいるおかげで芳しくはないが。
「ええい、お黙りなさい、ルチレイテッド・クォーツェン! この不埒ものが!!」
 明らかにルチルの物言いが気に入らないのだろう、ガートルードはまさにキレていた。
 ああ、何時になったら終わるのやらとルチルは独りごちる。ガートルードはこうしてほぼ毎日やって来て、ほぼ毎日同じ遣り取りを繰り返すのだからたまらない。
「ガートルード? 私もそこまで暇じゃないのだよ。用がそれだけなら早々にお帰り願おう」
 本当にいつものことながら疲れるとルチルは思う。こんな風に手前勝手に挑んでくるものは多いのだけれど、ことガートルード=ゴールディンはしつこい。
 しかしながらそもそもの原因はとっくにルチルが返還しているはずの魔術師の称号であり、それが次々と厄介ごとを呼び寄せてくるのだ。
 ルチルは外見は確かにうら若きかつ地味な乙女だが、ガートルードの言うとおりに間違いなく魔術師の称号を持っている。
 先ほどガートルードがルチルのことを『灰色のルチル』と呼んだのがそれに当たるが、本人は故あってその称号を自ら放棄している状態なのだ。
 が、世間ではそんなことはお構いなしらしく、ガートルードのような挑戦者がしこたまやってくる。その中の筆頭が無論ガートルードなわけであるが。
 彼女ら挑戦者たちが灰色のルチルに(こだわ)るその理由のひとつは彼女自身が持つ血筋が深く関わっているせいもある。
「捨てた、辞めたの戯言ばかり仰有ってるわりに魔導協会からお名前が消えることは! だいたいそう思うのならば潔く称号をお捨てなさいな!」
「そんなのとっくにやっているが、義母(はは)に堰き止められているって言ってるだろう! 何度言えば納得するんだ?」
 挑戦者の連中はルチルが幾ら放棄しようとも出来ないというのに、誰一人としてそれを理解しようとはしない。
 何しろどんなに魔術師を辞めたくてもルチルの場合、義母が魔導協会の有力者なものだから一向に受け入れられはしない、というより跳ね付けられている。
 ルチルの義母マルガレーテ=クォーツェン、称号は深紅のメグ、はルチルの実父アイオライト=クォーツェンの二度目の妻にあたり、優秀な魔術師だ。尤も本人は自分はむしろ奇術師なのよと笑うのだが、あながちそれも間違いではない。幼い頃にはよく彼女の行う奇術を見せて貰ったものだが、それは素晴らしいものだったと記憶にある。
 メグは義理とはいえ父が亡くなってもルチルを実の娘のように可愛がってくれる有り難い存在なのだが、その可愛い娘のたっての頼みは一向に聞いてはくれない。
 義母曰く、魔導師を辞めて解決することは何もないとのこと。
 でもね、お義母様(マーマ)、この手の連中に悩まされなくなるだけ御釣りが来ると思うのだけど。
 が、そう言っても義母はにっこりと笑うだけで、ルチルの望みはあっさり蹴られてしまう。
 故に悩みは尽きぬ。
「つまりあなたがどう言おうともあなたはまだ魔術師なのですから、私の挑戦を受けるべきと言うことですわね」
 ガートルードが勝ち誇ったように言うが、ルチルには受ける意志などは毛頭ない。
 もう限界だと重い腰を上げ、ガートルードを玄関扉まで追いやり、問答無用の力業で外へ向かわせた。当然相手は逆らおうとするが、ルチルはこれ以上は耐えられなかったので容赦はなしない。
「とにかく! 勝負する気は私には一切ない。だからこれ以上、今の私の仕事の邪魔をするのは止めてくれ」
 そう言うととりつく島も与えぬまま扉を閉め、幾重にも鍵をかけた。相手が魔導師である以上、こんな鍵は意味をなさないのだが、教会の規定によってそれは禁止されているためガートルードもそれ以上のことは出来ない。せいぜい扉を叩き続けることくらいだ。
 それでも漸く家の中では一人になることが出来てホッとする。予想どおり、まだ扉を叩く音が五月蝿いが、そのうち治まるだろう。一時間か、二時間後くらいにはだが。
 ああ、この分ではまた午前中の来客は逃げてしまっただろうなあ。
 まったくもって商売あがったりだ。
 ルチルは頭を抱えつつ、深くため息をつく。

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